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日本初の実態調査。1つの柔道クラブに平均2.2名の発達障害の可能性のある子供が在籍。
2022年2月、発達に凸凹(でこぼこ)のある子供が柔道クラブにどれぐらい在籍しているかなどについての画期的な研究が公表されました。NPO法人judo3.0はこの研究をサポートさせていただきました。
題名:柔道スポーツ少年団等に在籍する「特別な配慮を要する児童生徒(発達障害等を含む)」の実態と支援に関する調査 ~柔道指導者へのアンケートの分析~
著者:西村 健一
雑誌:「島根県立大学松江キャンパス研究紀要」 61巻(2022年2月14日)
以下、judo3.0の視点からみた上記の研究のポイントを見ていきたいと思います。
上記の研究の概要は以下の通りです。
- 25の柔道クラブ、小中学生約900名に関する調査で、
- 1つの柔道クラブに平均2.2名の発達に凸凹のある生徒がいて(6.1%)
- 約50%の指導者が保護者から障害に関する相談を受けているが、指導者が外部に相談したことはほとんどなく、
- 約70%の指導者が凸凹の子供の指導法を学ぶ必要があると認識している
1. 初の実態調査(発達障害)
発達に凸凹のある子供は柔道クラブにどのぐらい在籍しているのでしょうか。
2022年12月の文部科学省の調査(「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」令和4年12月13日)によると、通常学級の小中学生の8.8%について発達障害の可能性があると報告されています。また、公益財団法人日本体育協会によるスポーツ少年団への調査によると(「単位スポーツ少年団における障がいのある子どもの参加実態調査報告書(20215年3月)」)、78の様々なスポーツ少年団から回答があり、発達障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害など含めて、1クラブに平均2.6人の子供が参加していることが報告されています。
しかし、柔道に限らず、それぞれのスポーツ種目ごとに、発達障害のある可能性の子供たちがどれぐらい参加しているか、についての実態調査は見当たりません。本研究は、①一つの都道府県という大きな規模で、②小中学生が参加する柔道クラブに関して、③発達障害についての実態をはじめて明らかにした研究になります。
2. 1クラブに平均2.2名、70%以上のクラブに1名以上在籍
25の柔道クラブに在籍する約900名の子供のうち、50名超が発達障害の可能性がある生徒であることが明らかになり(全体の6.1%)、平均すると、1団体あたり2.2名の凸凹の生徒が在籍していることが明らかになりました。これを全国に広げて推測してみると、2020年の柔道登録人口は、小学生が2万6838人、中学生が2万4702人、小中学生の合計5万1540人であることから、国内の柔道クラブには、3100人以上の発達障害の可能性のある子供が在籍している可能性があります。さらに、論文公表後に行われた著者へのインタビューによると、発達凸凹の子供が1名以上在籍しているクラブは72%でした(書籍「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」23頁)。
この調査が行われるまで、発達凸凹の子供が柔道クラブに在籍しているのか、在籍していないのか、在籍するとしたらどのぐらい在籍しているのか、不明でした。本調査によって平均して1クラブに2.2名在籍していることが明らかになったことは画期的であり、これからの対策を考える基礎的な資料となります。
3. 柔道は凸凹の子供が参加しやすい可能性あり
最新の文部科学省の調査は先に述べたように8.8%でした。しかし、文部科学省の調査は「学習面又は行動面で著しい困難を示す」生徒について調査しており、学習面での課題がある子供を含んでいます。学習面での課題のみある子供を除くと4.7%となります。他方、今回の柔道クラブの調査では、指導者は、障害の種類としてADHDや自閉スペクトラム症をあげていますが、限局性学習症はあげておらず、学習面の課題を有する子供が含まれていない可能性があります。とすると、行動面で課題がある子供が、柔道クラブは6.1%、学校は4.7%、在籍している可能性があり、柔道クラブは、通常の学校よりも多くの割合で在籍している可能性が示されています。
この要因について著者は、保護者らが行動面や運動面を改善するために本人を柔道を進めたり、チームスポーツではなく、1対1であることの分かりやすさなどの可能性を上げています。柔道が、発達に凸凹のある子供たちにとって関わりやすい運動である可能性が示されています。日本には約80万人の発達障害の可能性のある小中学生がいると推定されています。もしこの柔道が有する強みを生かすことができたら、より多くの子供たちが柔道を始める可能性が示されていると思われます。
※論文は2022年2月に公表されたものであり、文部科学省の調査は2022年12月の調査ではなく、2012年の調査をもとに比較されています。
4. 初の発達性協調運動症(DCD)についての実態調査
これまで問題としてあまり認識されてきませんでしたが、近年、発達に凸凹のある子供たちの不器用さ(極端に不器用な場合は発達性協調運動症(DCD))についての研究が進み、その支援の重要性や不器用さによる悪影響などが明らかになってきています。国内において、第1回日本DCD学会学術集会が開催されたのが2017年と最近であり、DCDについての研究が少ないため、スポーツのコミュニティの中に、DCDの可能性のある子供がどのぐらいいるか、という実態調査はおそらくこれまでなかったのではないかと思います。
今回の研究は、柔道クラブにおけるDCDの子供についての初の実態調査であり、柔道クラブではDCDの可能性がある生徒は3.5%、1クラブ当たり、平均1.2名といるということが明らかにされました。研究では、小学生のほうが中学生より割合が高かったことから、不器用さのある小学生が中学校に進学したときに柔道を辞めた可能性が指摘されていましたが、いずれにせよ、この研究によって、柔道クラブに不器用さのある生徒が在籍していることが明らかになったので、不器用さのある生徒が柔道を親しむうえでどんな支援が必要なのか、今後課題が明らかになったと言えます。
5. 指導者は困っている
約50%の指導者が保護者から障害に関する相談を受けているにも関わらず、外部に相談したことがほとんどないなく、さらに、約70%の指導者が凸凹の子供の指導法を学ぶ必要があると認識していることが明らかになりました。相談するところがなく、指導法を学ぶ機会もなく、指導者は暗中模索しており、今後の課題として、指導者が相談することができたり、指導法を学ぶことができる環境を整えることが急務だと思われます。
6.まとめ
本研究によって、1クラブに平均2.2名の発達に凸凹のある子供が在籍していること、彼ら彼女らをどうやって指導したらいいか学びたい、と思っている指導者が7割いることが明らかになりました。発達障害は大きな社会課題です。この課題が柔道が組織的に取り組むことが求められていると思われます。
NPO法人judo3.0は2016年からこの課題に取り組み、指導法の研修を開催したり、書籍「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」や「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」を制作したりしています。最後に、書籍「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」のはじめの一節を引用します。
第2章では、発達に凸凹(でこぼこ)のある子供の柔道を見ていきます。2022年12月に公表された文部科学省の調査によると、発達障害の可能性がある小中学生が8.8%、約80万人います。彼ら彼女らが柔道で成長していく様子を見たら、凸凹の子供の発達を支える柔道に大きな可能性があることに気付くでしょう。日本の柔道がこのまま縮小するか、それとも盛り返すかの分岐点の一つは、「柔道は凸凹の子供の発達に良い」という実績と評判を組織的に築くことができるか否かにあると考えています。