柔道発達支援プロジェクトでは、有志とNPO法人judo3.0が協力して、発達が気になる子を含むすべての子供達が輝く柔道環境を目指して、
に取り組んでいます。
このプロジェクトの概要は以下の通りです。
プロジェクトの概要
目次
- 問題の所在
- アプローチ
- 現状の課題
- これまでの活動
- これから
1.問題の所在:発達に必要な運動が子供に届かない
文部科学省の調査によると、通常学級に通う公立小中学校の子供の8・8%に発達障害の可能性があり、国内には対人関係や学習に困難がある子供が約80万人います。発達に凸凹(でこぼこ)のある子供への教育的支援は大きな社会課題であり、特に、近年の研究は運動が子供の発達に有益であることを示していることから、彼ら彼女らに対して適切な運動環境を整えることが喫緊の課題となります。
もともと日本体育の父と称される嘉納治五郎は、「自分は、かつては非常な癇癪持で、容易に激するたちであったが、柔術のため身体の健康の増進するにつれて、精神状態も次第に落ちついてきて、自制的精神の力が著しく強くなって来たことを自覚するに至った」ことがきっかけとなり、運動という万能薬を万人に届けようと、柔道を創設したり、学校体育の拡充に取り組んだり、オリンピックや日本スポーツ協会を通じてスポーツの普及に努めたりしました。近年、運動をすると脳神経がどのように変化するか、についての研究が進んでいますが、これらの研究は「身体」の発達と連動して「精神」が発達するという嘉納治五郎の発見が正しかったことを示しています。
しかし、生活が便利になったり、遊び場が減少したり、室内でのゲームが広がったりすることで、子供が日常生活で身体を動かす機会は減少しており、子供の体力が低下、さらに裕福な家庭の子供は体力はあるが、そうではない家庭の子供の体力がないという二極化の傾向も生じています。
2.アプローチ:柔道を通じて子供達の発達を(→柔道人口増へ)
本プロジェクトが取り組む課題は、約80万人と推定される発達に凸凹のある子供たちにどのようにして発達に必要な運動を届けるか、というものであり、本プロジェクトのアプローチは、国内に7000以上のコミュニティを有し、1万5000人以上の指導者を有する柔道を通じて、というものです。
単純に計算すると、もし1つの柔道コミュニティで10名の発達に凸凹のある子供が柔道できるようになったら、7万人の子供達の発達をサポートすることができます。これは子供とその家族に対して価値を提供するとともに、柔道人口の増加につながります。国内の柔道人口は長年減少し続けていますが、本プロジェクトは発達に凸凹のある子供の柔道環境を改善し、「子供の発達に柔道は良い」という実績と評判を築いてこれからの社会で必要とされる柔道のカタチを確立することで、柔道の普及を企図するものです。
3.現状の課題
より多くの発達の凸凹の子供達に柔道が届くようにするためにはどうしたらいいのか、なぜ彼ら彼女らに柔道が十分に届いていないのか。様々な原因と考えられますが、ここでは左図にあるとおり、①柔道指導者と生徒の関係、②柔道クラブと地域社会の関係、③柔道関係者間の関係の三つの局面で見ていきます。
①柔道指導者と生徒:指導法のノウハウが不足
発達障害に配慮した指導が行われたら発達に凸凹のある子供は柔道に親しむことができます。しかし、指導者が発達障害について学ぶ機会は用意されておらず、多くの指導者は暗中模索しながら指導しています。もし発達障害のある子供への柔道指導のノウハウが開発され、指導者がそれを学ぶことができるようになったら、子供達は柔道に親しむことができるようになります。
②柔道クラブと社会:「子供の発達に柔道がいい」と思われていない
もし「子供の発達に柔道がいい」という実績と評判があったら、多くの子供たちが柔道を始めていると思います。調査によると、7割以上の少年柔道クラブには発達に凸凹のある子供が在籍していると推測され、彼ら彼女らが柔道を通じて成長しているケースは多々あります。しかし個人の取り組みに留まり、組織的に柔道環境を改善したり、柔道の魅力を発信したりする取り組みはあまり見当たりません。このほか、発達障害のある子供の支援において運動が必要であることについての理解が十分に広がっておらず、子供の問題行動や学習上の困難に目を奪われている現状があるように思います。
③柔道関係者:孤軍奮闘している
発達に凸凹のある子供が参加している柔道コミュニティは全国各地にあり、また、学校(学校柔道部)、地域(柔道クラブ)、福祉(放課後等デイサービスなど)、医療(作業療法など)など多様な領域にまたがっています。このテーマに積極的に取り組んでいる一部の個人にはノウハウや知見が集積されているので、地域や領域を超えて協力関係を築き組織的に取り組むことができたら、上記の①②の課題の解決に取り組むことができます。しかし、地域や領域を超えて関係者が情報交換する機会は用意されておらず、それぞれが各地、各領域で孤軍奮闘しています。
4.これまでの活動
各地の有志とNPO法人judo3.0は、2016年からフォーラムや勉強会を開催して発達障害に取り組む柔道関係者や専門家が情報交換する場づくりを始め、専門家と協議をして指導ノウハウを整理して、2018年から指導者向けに指導法のワークショップを開始しました。コロナ禍で中断しましたが、2023年4月末時点で、全国16か所(13都道府県)で開催し、411名の皆様に参加いただいています。
2020年には指導ノウハウをまとめた書籍「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」を制作、さらに、2023年には発達障害に取り組む指導者のインタビューなどを整理した「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」を制作しています。
また、2022年から4月2日の世界自閉症啓発デーの全国キャンペーンとして、各地の有志の柔道クラブとともに発達に凸凹のある子供が参加できる柔道体験イベントを始め、2023年は6クラブが柔道体験会を開催して113名が参加、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられました。
発達障害と柔道に関する学びの場づくりは2016年から継続して行っており(コロナ禍ではオンライン上で開催)、2021年には「発達が気になる子が輝く柔道サミット」を開催して、発達障害に取り組む日本及び海外の指導者16名がその取り組みについて講演しました。
これからの活動の詳細はこちらをご覧ください。
5.これから
書籍「誰一人取り残さない柔道 柔道人口が増える3つの視点」の「はじめに」には以下のように書かれています。
第2章では、発達に凸凹(でこぼこ)のある子供の柔道を見ていきます。2022年12月に公表された文部科学省の調査によると、発達障害の可能性がある小中学生が8.8%、約80万人います。彼ら彼女らが柔道で成長していく様子を見たら、凸凹の子供の発達を支える柔道に大きな可能性があることに気付くでしょう。日本の柔道がこのまま縮小するか、それとも盛り返すかの分岐点の一つは、「柔道は凸凹の子供の発達に良い」という実績と評判を組織的に築くことができるか否かにあると考えています。
「柔道は凸凹の子供の発達に良い」という実績と評判を組織的に築くためには、関係者の力を結集して(3③)、指導法を含めた柔道環境を改善し(3①)、かつ、社会に対して発達支援としての柔道の魅力を伝えていくこと(3②)が求められており、ポイントはこのテーマに関心がある人々がつながっていくことだと思います。定期的にオンライン上の勉強会などを開催しているので気軽にご参加いただけたら幸いです。
- 発達支援プロジェクトに関するこれからのイベントはこちら
- judo3.0の様々なイベントはこちら(毎週金曜日の夜にオンライン上で勉強会を開催中)