2-1 指導の工夫の仕方

特別支援教育の研究が進むにつれて、支援を考えるための方法も明らかになってきました。ここでは、海外でも広く使われている「応用行動分析」について紹介をします。

発達障害のある子どもへの支援(応用行動分析)

発達障害の子どもは、どの子も一人一人がとびっきり個性的です。残念ながら、水戸黄門の印籠のような、全ての子どもに当てはまるような支援ありませんが、全ての子どもの支援を考える際に使える方法があります。それが、応用行動分析と呼ばれるものです。

応用行動分析とは、望ましい行動を増やしたり問題となる行動を減らしたりするときに有効であるといわれています。特別支援教育の現場においては広く活用されており、その効果も研究的に実証されています。

次のようなケースを考えてみましょう。

たろうくんは、腕立て伏せが嫌いです。今から腕立て伏せをするよと言われると、友達にちょっかいを出して、先生に叱られています。そうしているうちに、腕立て伏せが終わってしまいました。このようなことは、これまでも繰り返されています。

行動は、行動をしたあとに望ましい結果が伴いことで維持されると考えられます。たろう君の場合、友達にちょっかいを出すことで結果として、腕立て伏せを回避することができています。一見すると、先生に注意をされているので望ましくないように見えるかもしれません。しかし、大切なのは行動の意味(機能)を理解することなのです。

応用行動分析は、行動の「前」にあったことや、行動の「後」に起こったことに注目し、それらを変えることによって行動自体を変えていこうとするものです。たろうくんがちょっかいを出す直前はどのような状況でしたか? たろうくんは、友達にちょっかいを出すことでどのようないいことがあったでしょうか?

ちなみに、子どもの問題行動を持続させる要因として「要求が通ること」「拒否が通ること」そして「注目されること」があるといわれています。たろうくんは、腕立て伏せの「拒否が通る」だけでなく指導者に「注目される」というダブルのメリットを得ていたのかもしれません。

それでは、どのように工夫をしていきましょうか?友達にちょっかいを出すという行動の前の状況と後の状況を変えていきます。

前の状況を変えるためには、どのような工夫ができるでしょうか?例えば
〇腕立て伏せの回数を少なくする
〇腕立て伏せではなく、腕立て伏せの動きを使ったゲームをする
〇腕立て伏せの時に帯をもってサポートすると伝える
〇ひざつきの腕立て伏せでもよいことを伝える。
などが考えられるでしょう。

次にあとの結果を変えていきましょう。たろう君の場合は、「腕立て伏せの拒否が通ること」「指導者の注目を得られること」が行動を維持する要因だと思われます。
そこで、
〇腕立て伏せが数回できているところで、称賛を入れる。
〇最後まで頑張った場合はこころからほめる。
〇「たろうくんのことを見ていたよ」と伝える。
等はいかがでしょうか?
友達にちょっかいを出して叱られるのではなく、腕立て伏せをがんばって認められる喜びを教えてあげましょう。

ほめ方のコツ

先ほど、ほめることが大切であると述べました。それでは、どのようにほめたらよいのでしょうか。それは、「本当に心からの褒める」ということです。子どもたちは、大人が思っている以上に大人のことを見ています。本当に褒めたのか、それとも言葉だけで褒めたのかを見抜いているかもしれません。

子どもをほめるためには、子どものことをよく知っていなければなりません。子どもは、いま何に挑戦しているのか、どの程度できているか、これまでどんな練習をしてきたのかを知っていないと、うわべだけの褒め方になるでしょう。

また、「結果」をほめるのではなく、「過程」をほめるようにしましょう。もし、柔道の試合で優勝したことをほめると、次に褒められるためにはまた優勝しないといけませんね。もし、強い子どもが出てきて優勝できなくなったらどうでしょうか?その子どもは褒められるポイントがなくなってしまいます。

そこで、「結果」ではなく、「過程」をほめるようにしましょう。例えば「背負い投げに入る前の、小内刈りのタイミングが良かった」と言われると、「次はもっともっとがんばってみよう」と思えるでしょう。

ちなみに、ほめるタイミングは、良いことを行った直後が望ましいといわれています。特別支援教育のプロの世界では、ほめるコツは<明確に><即座に><一貫して>そして望ましい行動に<随伴させて>であると言われています。大人の気分によって褒めたり褒めなかったりすることのないようにしたいものです。

人と比べるのではなく本人の頑張りに注目してみましょう。柔道は対人競技であり、さらに勝ち負けがはっきりとしていますので、どうしても人と比べがちになります。少しでもいいので、本人の頑張りに注目してもらえれば、柔道が好きな子どもが増えていることでしょう。

ほめるということについては、反論もあるかもしれません。たとえば、「厳しい指導によって心身が鍛えられ成長が促される」といった意見です。ここで「ほめると子どもはダメになる(榎本博明著)」を少し引用してみましょう。この本では、ほめることの弊害について指摘しています。
例えば、調子に乗る/自己チューになる/善悪の判断ができなくなる/打たれ弱くなる/挫折した時に落ち込みやすいなど、合計16の弊害です。

しかし、筆者はほめることを否定しているのではありません。「どういうときにほめるか、どのようにほめるか、ほめることと𠮟ることをどうするか」が大切であると指摘しています。そして、「能力」をほめるのではなく、「頑張り」をほめることで子供は成長しますと述べているのです。つまり、何でも適当にほめるのではなく、子どもの努力に対してほめることが大切なのです。優勝や勝利など結果ではなく、そこのプロセスの中で良さを認めてあげましょう。

一方で、本人のために叱った方が良い場面もあります。その時にもコツがあります。指導される理由についてポイントを絞って分かりやすく伝えることが大切です。人前で大きな声で叱るのではなく、個別の場面を作り落ち着いて諭すことも大切です。また、自分や人に危害が加わりそうな場面では、譲らないという指導法もあります。ある発達障害の子どもが、別の子どもの言動に腹を立てて殴りかかろうとしています。その時に周りの大人が大きな声で感情的に止めると、さらに火に油を注ぐことになりかねません。

そのようなときは、相手の子どもとの間に入り子供の手を握り、力を受け止めたうえで「暴力は許さない」という姿勢を貫くことが大切です。ここで大切なのは力づくで抑えるのではなく、相手の力をうまく逃がしながら「先生は怒らないけどここは譲りませんよ」というメッセージを伝えることです。

道場は日々いろいろなことが起こります。その時に、その場しのぎの対応をするのではなく、応用行動分析の考えを取り入れながら、うまくほめることを通じて子どもの成長を促していきましょう。

ケース1

それでは、ここで想定されるケースとその対応方法について考えてみましょう。
ケース1
小学2年生の女の子。技の説明をするために指導者の周囲に集めるものの、友達にちょっかいを出して話を聞いていない。そのため、よく指導者に起こられているものの、次に技を教える時にはまた友達と遊んで話を聞かない。
対応
技の説明をする前の工夫としては以下のようなものが考えられます。
〇友達と少し離れて座る 〇円ではなく子どもが見えるように横一列で座る 〇説明をした後実際に投げ込みをするという予告をする 〇教材や絵、文字を使う 〇女の子をモデルとしてみんなの前に立たせる
技の説明をした後には以下の工夫ができるでしょう。
〇実際に習った技の投げ込みをしてみる 〇「話をよく聞いていたから、できているね」とほめる 〇個別にもう一度技の確認をする

ケース2

小学校4年生の男の子。乱取りをしている時に、投げられるとムキになり相手をたたいたり蹴ったりしてします。個別に話をすると、「次はしません」と答えるものの、乱取りになると相手とのトラブルを起こしてしまう。
乱取りの前にできる工夫
〇乱取りで大切なのは、投げることではなく練習している技を試すことであるという価値づけを確認する。〇号令係に任命する(大きな声が出た時にはすかさずほめる)〇乱取りのポイントを伝える(引手の位置、足技の数など具体的に)〇乱取り自体の時間を短くする 〇年下の相手としながら教えるという役割を与える
乱取り後にできる工夫
〇乱取りの中でできたことを振り返る 〇投げたという結果ではなく、相手を動かそうとしたなどの過程をほめる 〇声が良く出ていたなどの具体的な行動をほめる 〇友達とトラブルを起こさなかったときは、その都度認めるような声掛けをする

ケース3

小学校6年生の女の子。「柔道着が痛い」といって、柔道着を着ることを嫌がることもある。また、乱取り中に相手が足払いをしてくると「蹴られた」といってすぐに泣く。
乱取り前にできる工夫
〇足払いは3回までなどのルールを決めて乱取りをする。〇燕返しを教える。〇足首にサポーターをつける。〇柔道着のズボンの下にジャージをはく 〇足払いを教える 〇休憩中に足を温めておく
乱取り後にできること
〇柔道ができたことを称賛する。〇少しだけスプレーをする 〇痛かったことではなく面白かったことに関心が行くように話題を向ける

大切なこと

少年柔道で大切なことは、生涯にわたって柔道を好きで続けてくれる人口を増やすことです。そのためには、様々な指導の工夫をすることが大切です。子どものことを知ったうえで、応用行動分析の考え方を取り入れる。そして、結果ではなくプロセスをほめることを通じて、子どもたちの心身の成長を促していきましょう。

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