1-5 コミュニティと運動

第4回目は、いよいよ第3層、人との交流における運動の効果についてです。

第1回にて、人は他人との交流によって発達していくという点に触れました。

なぜ発達に凸凹が生じ、日常生活に支障が出る場面があらわれてくるか、というと、発達障害だから、と捉えるより、中枢神経の発達不全によって、身体の不器用さがあったり、感覚過敏があったりなど種々の事情で、人と交流する機会が減ったり、人との交流から学ぶことのできる内容に偏りが出たから、というように理解すること、すなわち、その子どもの特性に適した人との交流の機会があったら、発達障害があっても、子どもは交流を通じて学び、発達していく、という風に理解することが大事なポイントになります。

柔道やスポーツの指導者は、多くの場合、クラブや部活というコミュニティを運営しています。したがって、指導者は、発達に凸凹のある子ども達に対して、人と交流する機会を提供することができ、子ども達にコミュニティに所属する機会、「居場所」を提供することができます。

これまで、第1層(脳・中心神経)、第2層(身体)という側面で指導者がどのようなことができるか、観てきましたが、以下、このコミュニティを提供できるということの価値と可能性を見ていきます。

子どもの遊び場が減っている

人の発達には身体を動かして人と交流することが必要不可欠です。しかし、昔と比較して、子ども達が身体を動かして遊ぶこと(外遊び)ができる環境はどんどん少なくなってきています。昔であれば、スポーツクラブに行かなくても、子ども達は勝手に外で遊んでいた。しかし、多くの人々が都市に住むようになったり、生活が便利になったりするにつれて、身体を動かして遊ぶことのできる環境が減っています。したがって、柔道・スポーツの指導者は、昔と異なり、大人がその環境を用意しないといけない、という現状があり、それはスポーツの指導者に双肩にかかっていることを理解する必要があります。

コミュニティで子どもが発達するメカニズムを知る必要性

次に、子どもが「コミュニティ」の中でどういう風にして成長するのか、そのメカニズムを理解することが必要です。

つまり、指導者と生徒の1対1の関係だけをみて、生徒が先生の指導を受けて成長していく、という視野だけでは、コミュニティの中での子どもの成長を適切に促すことができません。

同様に、それぞれの子ども達にしっかり稽古をさせ、体力、技術等を向上させ、大会で勝利する体験をもたらす、このプロセスを通じて、子ども達の成長を促す。こういった視野だけでも、コミュニティの中での多様な子供の成長をそれぞれ促すことは難しい、ということは多くの指導者は実感していると思われます。なぜなら、身体が小さくて試合に勝てないため辞めていく子どもなど、このパターンにうまく乗らない子どもがいるからです。

では、発達凸凹の子ども達も含めて、子どもとコミュニティの相互作用、その学習をデザインするうえで、どのような視野でみたらいいのか、以下、3つの枠組みをふれていきます。

コミュニティの周辺から中心に移動する過程で人は精神的に成長する

既存の学習モデルに代わるものとして、ジーン・レイブとエティエンヌ・ウェンガーにより提案された新しい学習モデルが「正統的周辺参加」ですが、詳細は著書などによるとして、枠組みはシンプルでとてもイメージしやすいものです。会社でも、クラブでも、新人が入ったとき、当初は技術的にも精神的に未熟ですが、経験を積んで、そのコミュニティのなかで役割が大きくなっていくと、単なるスキルの向上にとどまらず、精神的にも大きく成長していきます。

このように、コミュニティの周辺にいたときは精神的に未熟だったが、コミュニティの中心部分に移動していくにつれて人は成熟していく、このような視野を持つことで、一人一人の子ども達が、コミュニティの中心に移動していくことができるよう、指導者がコミュニティや生徒に対して配慮し、成長を促すということが可能になります。

 

自分が必要とされている、から、誰かのために頑張る、が生まれる

様々なところで引用されるマズローの欲求5段階説ですが、第3の欲求として、どこかに帰属したい、という欲求が挙げられています。

もし、柔道やスポーツのコミュニティが、子ども達の第3の欲求を満たすことができると、第4の欲求、自分が集団から価値ある存在と認められたい、という承認欲求が生まれていきます。ここから、コミュニティに貢献する、自分のためではなく、他人のために何かを頑張る、という行動が生まれてきて、それがある程度満たされると、第5の欲求、自己実現の欲求が生まれてくるといいます。

 

誰かのために何を頑張ることができる、なりたい自分を向かって自ら歩んでいく、

柔道やスポーツの指導者は、そのような成長を子ども達に求めていると思いますが、その欲求を生み出す基盤は、自分の居場所があるとか、周りから必要とされている、という第3の欲求が満たされることにあるのです。したがって、柔道・スポーツの指導者は、発達障害のある子ども達に対して、自ら運営するコミュティへの参加を促し、第3の欲求を満たすことで、成長を促すことができる、という視点を持つことがポイントになります。

実際、勝利した監督のインタビューで「一人一人によく声をかけることを大事にしてました」とか、勝利した選手のインタビューで「監督や周りからいつも気にかけてもらってました。それが力になりました」ということが語られたりします。クラブの生徒のうち、どれぐらいの割合の生徒が、自分がこのクラブで人から気にかけてもらっている、必要とされている、と感じているか、この点がポイントの一つとなります。

ベースキャンプとしてのクラブ

最後に、柔道やスポーツクラブのコミュニティを可能性をみる視野として、発達凸凹の子ども達が他の様々なコミュニティの参加するうえで、ベースキャンプとしてのコミュニティになる、という視点です。

人は様々なコミュニティに所属し、それぞれいいこともあれば、葛藤もあります。運動には脳の栄養を生み出し、人を元気にする力があることをふれましたが(第2回)、スポーツのコミュニティに所属し、運動ができるということは、様々なコミュニティに参加するうえでのベースキャンプとして機能させることができます。

学校でうまくいないとき、家庭でうまくいかないとき、友人との人間関係でうまくいかないとき、職場でうまくいかないときなど、柔道やスポーツのクラブに来て、仲間と汗を流して気分転換をして、翌日にまた、それぞれのコミュニティで頑張る、または新しい職場にいくなど、挑戦を応援する。

柔道・スポーツの指導者は、このような視点をもつことで、自ら運営するクラブ・コミュニティをどのように価値づけたらいいのか、視界が開けてくると思います。

まとめ

以上、生徒とコミュニティの相互作用を通じて、生徒の成長を育むための視野を三つふれましたが、これは、発達障害があるなし問わず、どの生徒にも必要な作用ですが、発達凸凹があると、既存のコミュニティに入りずらいという大きな課題を抱えています。

運動・スポーツはコミュニティを作りやすいという特性があります(数学クラブよりサッカークラブのほうが多い)。したがって、柔道・スポーツの指導者は、自らが運営するコミュニティにどのような価値と効果、可能性があるか、を理解することが必要となります。

 

 

 

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