1-2 柔道の指導者は発達障害をどのように捉えたらいいか?

発達が気になる子が輝く柔道・スポーツの指導法。第1回。

1.人が発達する仕組み

柔道やスポーツの指導者は、発達障害をどのように捉えたらいいのか、そして、私たちは何ができるのか?について、理解が容易になるように思い、独自の枠組みを用意しました。この枠組みは厳密なものではありません。あくまでスポーツの指導者が発達障害の理解を促進するうえで参考になる情報をわかりやすく伝えるために開発したものです。

身体と交流

人の活動は、神経があって(第1層)、神経が身体を動かし(第2層)、身体を動かして人と交流し(第3層)、人との交流を通じたたくさんの経験・情報を神経が情報処理をして(第3層から第1層)、身体を動かし、人と交流する、というサイクルを繰り返しており、これを繰り返すことで人は成長・発達していきます。

この枠組みで考えるとき、第1のポイントは、第2層の部分、人間の身体は、発達するにつれてだんだんとよく動くようになっていくということです。

当たり前と思われるかもしれませんが、赤ちゃんのときはあまり動けない、次第に四つ這い、四足歩行ができるようになる、次は、立って歩く、二足歩行ができるようになる。そして、走ったり、ジャンプができるようになり、さらに進むと、例えば、柔道の技のように、手足を別々に動かすような複雑な動きもできるようになる。人の発達は、複雑な動きができるようになる、ということが第一のポイントです。

第2のポイントは、第2層と第3層が連動していること、身体の動かすことによって他人との交流しているという点です。

例えば、赤ちゃんはお母さんのほうを見てニコッと笑う、これは顔の筋肉を動かしたわけですが、そうしたら、お母さんが抱きしめてくれる。ジャンプができるようになると、友達と縄跳びができる。指先を器用に動かすことができると、友達とテレビゲームができる。

しかし、身体がうまく動かなったり、うまく機能していないとき、人との関わりが減っていきます。ジャンプができなければ、友達と縄跳びができない、歩くことがとても大変だったら、友達の家に遊びに行くことができない、・肌に触れられることがとても不快だったら、お母さんは抱きしめることができない

このように、身体がよく動くこと、良く機能することで人との交流が可能になっていき、身体がよりよく動くようになることで、人との関わりも多様に豊かになっていきます。

第3のポイントは、人は他者との交流によってたくさんのことを学び、成長・発達していくということです。

身体を動かし、人と関わることで、たくさんの情報を得て、それをもとにまた身体を動かし、人と関わる、その繰り返しです。したがって、身体が動く動かないと、人との交流する機会が減り、すなわち、学びの機会が減っていくということになります。

神経

では、身体を動かしているのは何か、ということになると、神経になります。

神経は、中枢神経と末梢神経に分類され、末梢神経は、主に内臓を動かす自律神経、主に筋肉を動かす体性神経があり、体性神経は情報を集める(インプット)の感覚神経と情報を筋肉に伝える(アウトプット)の運動神経があります。

身体全体に末梢神経がいきわたっています。末梢神経を通じて、外の世界の情報や身体の中の情報を得て、中枢神経が情報処理をし、末梢神経を通じて情報が身体に伝わる。私たちは、そうやって身体を動かし、人と関わって、生きています。

発達障害は「脳機能の障害」と言われており、そのように聞くと脳だけをイメージしがちです。しかし、発達障害は、DMS-5(米国の診断基準)で「神経発達症群」として位置づけられ、「神経」の発達に何らかの不全があるものです。その神経は全身にいきわたっています。

スポーツの指導者が発達障害を思い浮かべるとき、この全身にいきわたった末梢神経、末梢神経と中枢神経(脳と脊髄)のイメージを持つことがポイントとなります。

「人間は考える葦である」という言葉があるとおり、自我を持つ私たちは人間の活動の中心的なものが「考える」ということであると考えがちです。このとき「身体」というものが忘れられ、「頭」や「脳」に注意がいきがちですが、人間も動物の一種であり、この世を生きる動物にとって最も大事なことは「動く」ことにあり、そのために神経は全身に張り巡らされています。

 

以上、人の発達のメカニズム、第1層では中枢神経と末梢神経が働き、第2層では身体が動き、第3層では人とか関わる。人と関わることで、たくさんの情報を得て、また第1層の神経が働き、第2層の身体が動き、第3層の他者と関わる。これが繰り返されることで、人は身体も精神も発達していく。そのような枠組みの説明でした。

2. 発達障害の捉え方

発達障害の主な種類

発達障害は、一般的に、自閉症スペクトラム障害(ADS)、 注意欠陥・多動性障害(ADHD)、 学習障害(LD)、があります。

詳細は後ほどふれたいと思いますが、自閉症スペクトラム障害は、対人関係が苦手、相互のコミュニケーションが難しいなど、ADHD は、不注意、多動性、衝動性などで、授業中に歩き回るとか、激しく駄々をこねる、不注意による間違いが多いなどあります。LDは、読み書きなどが難しいというもので、本を読み上げることができなかったり、書くことが苦手のためテストに回答がかけなかったりなどであり、多くが、学校という集団の中で勉強したり、会社で仕事をしたりという他者と何らかの共同する生活をするうえでいろいろ支障が出てきます。

感覚過敏

このように、これまで発達障害は、どちらかというと、図の第3層の人と交流のシーンで、様々な課題があるという風に捉えられてきました。「社会性に関する障害」と言われることもあります。最近、図の第2層の、身体そのものに多くの課題あるのではないか、いわば「身体に関する障害」と捉えた方がより理解しやすくなるのではないか、という視点がでてきました。それは発達障害の当事者自身が自分がどのように感じているかを表現することが多くなったこと(例えば「自閉症の僕が跳びはねる理由」(東田直樹))や、研究が進んできたことによります。

2017年7月7日、NHKが「発達障害 解明される未知の世界」という特集を組み、感覚過敏について報道しましたが、目で見ている映像、耳で聞いている音、肌で感じる感触、鼻で嗅いでいる匂い、手足を動かすときの感覚など、様々な点で、定型発達の場合と異なることが明らかになってきたのです。

例えば、一人遊びを好み、人と一緒に遊ばない、お母さんにも抱っこされるのを嫌がる子どもがいたとして、これまでは「この子は人と関わりたくないんだ」「どうやったら他人に遊べるようになるだろう?」とあれこれ考えていた(第3層の人との関わりの問題として捉えていた)。しかし、もしかすると、人の声がひどい雑音に聞こえてつらくて、また、肌に触られるととても不快になるから、他人と遊ぶことを避けていたかもしれない。仮に、このような聴覚や触覚に問題があって人との関わりを避けていたとしたら、第2層の身体の問題として捉え、対策を考えたほうが効果的にアプローチできるのではないか、という視点です。

不器用さ

発達障害をこのように身体の問題として見直したとき、感覚過敏には様々な種類がありますが、注目されてきたのが身体の不器用さです。多くの発達障害のある子ども達が身体の不器用さを抱えていることは指摘されてきました。例えば、

まっすぐに座れずにすぐに椅子にもたれかかってしまう、
何もないところを歩いていてつまずいて転んでしまう、
どこからどこまで自分の体なのかわかりにくい
字を書くときに枠の中に字を収めて書くことがすごく難しい
本を読むときに眼球をうまく動かすことができず、数行飛ばし読みをしてしまう

もっとも、これまでは社会性やコミュニケーションの障害がメインであり、身体の不器用さは付随的なもののような理解で、あまり注目されていませんでした。しかし、近年、身体、感覚過敏に注目が集まって、発達障害のなかでも、身体の不器用さに注目した、発達性協調運動障害(DCD)に注目が集まっています。

3. 柔道・スポーツ指導者ができること

まとめると、人の発達の仕組みを、第1層の神経、第2層の身体、第3層の他者との交流と捉え、第1層の中枢神経の発達不全である発達障害は、第3層の社会性の問題として捉えられてきましたが、近年、第2層の身体、感覚過敏の問題、その中でも不器用さについて注目が集まってきた、という話でした。

それでは、柔道やスポーツの指導者は、発達障害についてどのように捉え、どのようにアプローチしていったらいいでしょうか。それぞれの層ごとに三つあります。

第1層:中枢神経の発達を運動で促す

一つ目は、第1の層、中枢神経について。

近年、発達障害あるなし問わず、運動は中枢神経の発達にきわめて有効であるということが明らかになってきています。したがって、運動が中枢神経の発達にどのような効果があるかを知ることで、柔道者やスポーツ指導者が運動を通じて何ができるのか、ということが分かってきます。

第2層:不器用さを運動で改善する

二つ目は、第2の層、身体について。

発達障害はこれまで他人からは分かりにくい障害でした。身体の不器用さも気づかれにくいものでした。

しかし、スポーツの指導者がみた場合、多くの場合、生徒の身体の不器用さは気づきやすいです。同じスポーツをすると、できる子、出来ない子の対比されて明らかだからです。中枢神経の発達不全という目に見えないものが、身体の不器用さとして目に見える形で表出しているのです。そして、この身体の不器用さは、程度の差はあれ、運動することによって改善することができ、この改善は単なる不器用さの解消にとどまらず、第1層の中枢神経の発達につながり、他の側面にもいい影響が及んでいきます。

それでは、発達障害の子どもの不器用さを改善できるのは誰か。おのずと柔道やスポーツの指導者の役割が見えてくると思います。

第3層:コミュニティを通じて人との交流する機会を提供する

三つ目は、第3の層、社会性の層です。

人は他者との交流によって発達・成長していく、という点を話しました。柔道クラブやスポーツクラブはコミュニティであり、柔道やスポーツの指導者はコミュニティを運営する人です。したがって、柔道、スポーツの指導者は、自らが運営するコミュニティを活用して、発達障害のある子ども達に人と交流する機会を提供することができます。

以上、人の発達の仕組み、発達障害の捉え方、そして、柔道・スポーツ指導者は何ができるか、について概要を示しました。第2回以降は、第1層の運動と中枢神経、第2層の不器用さと運動、第3層のコミュニティについて、それぞれ詳しく見ていきます。

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